大判例

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東京高等裁判所 平成10年(う)119号 判決

被告人 長谷川茂夫

〔抄 録〕

ところで、論告・求刑は、検察官が、証拠調べ終了後、公益の代表者として、それまでに形成された証拠関係等をもとに、事実及び法律の適用について意見を述べるもので、いわば訴追側の訴訟行為の集大成というべきものであり、弁護人や被告人の弁論等も主としてこれに対する反論という形でなされるものであるから、その重要性はあらためていうまでもなく、証拠関係等に何の変化もないのに軽々にこれを変更するのが相当でないことは所論指摘のとおりである。しかし、論告・求刑は、以上の如く検察官が公益の代表者としてなす重要なものであるから、それが明らかに誤っている場合にも、証拠関係に変化がない限り、これを補正することが許されないと解するのは相当でなく、そのようなときは、検察官としては、むしろこれを補正して適正なものにする義務があるというべきである。そして、その結果、論告・求刑が従前のものに比べて被告人に不利なものになることがあったとしても、それは誤ってなされた論告・求刑が是正されたことによるものであって、被告人に不当な不利益を課すものではないから、蓋しやむを得ないものというべきである。

これを本件についてみると、前述の検察官の当初の求刑意見が、近時の同種事犯に対する科刑状況等に照らし、著しく軽きにすぎるものであったことは明らかである。したがって、本件の場合、検察官がそれを補正しようとして弁論の再開請求をしたのは当然であり、原審裁判所が右請求を容れて弁論を再開したことにも何ら違法な点はない。また、原審の弁護人や被告人は、検察官の論告・求刑変更後、当該期日において直ちに異議なく弁論等に応じているのであり、右の論告・求刑の変更が弁護人や被告人に不当な不意打ちを与えたとも認められない。そうすると、検察官が、当初誤った論告・求刑をしたため、被告人にあらぬ期待を抱かせたであろうことは、論告・求刑の重要性にかんがみ甚だ遺憾というほかないが、原審の訴訟手続自体には、所論指摘のような法令違反はないというべきである。

(島田仁郎 下山保男 福崎伸一郎)

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